そこは、煤汚れた牢獄の様な場所だった。
私の首にはまるで、飼い犬の様な首輪が付けられている。 フォトンの力を抑制するもの、と、私を利用する男たちは卑下た表情で言っていた。
その男の一人に、私は後ろから羽交い絞めにされ、立たされている。 …目の前には、赤い髪の少年が悲痛な表情を浮かべながら叫んでいた。
「止めてよ! 僕が、僕が言ったんだ、逃げようって! その子は悪くない…っ!」
私と同じ首輪を付けられ、壁から伸びた手錠に拘束されながらも…男の子は暴れ、抜け出そうとしている。 …私たちは、フォトンを使えなければ只の子供だった。
それでも大人しくならない少年に対し…薄汚れた白衣を纏い、痩せた男がにやにやと笑いながら近づいていく。
…この男は、私を"買った"。 そして、私はこの男に命じられ…沢山の人間を傷付けた。
「くくっ、君のようなバケモノでも…こうなってしまえば形無しだな。 もっとも、ここ以外のシップじゃ君のお仲間がうじゃうじゃ居るが…」
男は部下の人間から、鉄で出来ているであろう棒のような物を受け取る。 少年の前に立つと、その棒を大きく振り上げ…
「ぐが…っ!?」
少年の、後頭部に勢いよく振り下ろした。
鮮血が飛び散り、私の顔にかかる。
「自分を恨むといい。 …その力のせいで、君達はこうなっているのだから」
私は叫んだ。"止めて"、と、何度も叫んだ。
「あぁ…?! が、う、あ、ぁあ…!」
しかし男は、その声に耳を貸さなかった。 それどころか、叫ぶ私の声を何処か愉しんでいる様子だった。
幾度も、男は少年の頭を叩きつけるのだ。 やがて彼が呻き声も出さず、首を垂れた頃に…息を切らした奴は、此方を見る。
「それだよ」
その男は、とても愉快そうに笑っていた。 少年の血で赤く染まった手で、私の頬へ手を伸ばす。
「その表情だ。 君は何をしても、どんな事をしても、表情がなかった。 悲しみや憎しみに顔を歪ませてくれなかったね。…ああ、想像通りだ。 涙を流す君は、悲観にくれた君の眼は、何よりも美しい…」
男に指摘され、私は初めて自分が涙を流していることに気が付いた。 奴は私の頬に滴った涙を拭うと、 その指を舐めしゃぶり、嬉しそうに目を細める。
「美しい紅と蒼…とっても悩ましいけれど…」
「…あぐ、や、やめ…」
気が付いた少年が、私と彼を見て辛そうに声を出す。
それを聞くと、口角を釣り上げて…とても嬉しそうに、そしてぞっとする笑みを浮かべた。
やがて指を、再び私の顔に伸ばし…そして。
―見開いた私の左目に、躊躇なく突っ込んだ。
「やはり飾るのなら…ふふ、紅だね。 血のように真っ赤で、絶望に霞んだ、素敵な紅…」
余りの激痛に、頭の中が真っ白になる。 狂乱し、振りほどいた手で、咄嗟に左目を押さえた。
…見えない。 左目の、あったはずの視界が、全く見えなくなっている。 血がまるで水流の様に溢れ出す。
痛い、痛い、痛い、痛い!
上手く声にならない。 何が起きているのかも、頭が理解するのを否定している。
そんな私の、残された視界に入ったのは…愛おしそうに、血に塗れた丸い其れを…舌で舐めている醜悪な男の姿だった。
「ずっとずっとずっと、欲しかった、欲しかったんだぁ…ふふ、あは、あはははは! 素敵だなぁ」
私の首にはまるで、飼い犬の様な首輪が付けられている。 フォトンの力を抑制するもの、と、私を利用する男たちは卑下た表情で言っていた。
その男の一人に、私は後ろから羽交い絞めにされ、立たされている。 …目の前には、赤い髪の少年が悲痛な表情を浮かべながら叫んでいた。
「止めてよ! 僕が、僕が言ったんだ、逃げようって! その子は悪くない…っ!」
私と同じ首輪を付けられ、壁から伸びた手錠に拘束されながらも…男の子は暴れ、抜け出そうとしている。 …私たちは、フォトンを使えなければ只の子供だった。
それでも大人しくならない少年に対し…薄汚れた白衣を纏い、痩せた男がにやにやと笑いながら近づいていく。
…この男は、私を"買った"。 そして、私はこの男に命じられ…沢山の人間を傷付けた。
「くくっ、君のようなバケモノでも…こうなってしまえば形無しだな。 もっとも、ここ以外のシップじゃ君のお仲間がうじゃうじゃ居るが…」
男は部下の人間から、鉄で出来ているであろう棒のような物を受け取る。 少年の前に立つと、その棒を大きく振り上げ…
「ぐが…っ!?」
少年の、後頭部に勢いよく振り下ろした。
鮮血が飛び散り、私の顔にかかる。
「自分を恨むといい。 …その力のせいで、君達はこうなっているのだから」
私は叫んだ。"止めて"、と、何度も叫んだ。
「あぁ…?! が、う、あ、ぁあ…!」
しかし男は、その声に耳を貸さなかった。 それどころか、叫ぶ私の声を何処か愉しんでいる様子だった。
幾度も、男は少年の頭を叩きつけるのだ。 やがて彼が呻き声も出さず、首を垂れた頃に…息を切らした奴は、此方を見る。
「それだよ」
その男は、とても愉快そうに笑っていた。 少年の血で赤く染まった手で、私の頬へ手を伸ばす。
「その表情だ。 君は何をしても、どんな事をしても、表情がなかった。 悲しみや憎しみに顔を歪ませてくれなかったね。…ああ、想像通りだ。 涙を流す君は、悲観にくれた君の眼は、何よりも美しい…」
男に指摘され、私は初めて自分が涙を流していることに気が付いた。 奴は私の頬に滴った涙を拭うと、 その指を舐めしゃぶり、嬉しそうに目を細める。
「美しい紅と蒼…とっても悩ましいけれど…」
「…あぐ、や、やめ…」
気が付いた少年が、私と彼を見て辛そうに声を出す。
それを聞くと、口角を釣り上げて…とても嬉しそうに、そしてぞっとする笑みを浮かべた。
やがて指を、再び私の顔に伸ばし…そして。
―見開いた私の左目に、躊躇なく突っ込んだ。
「やはり飾るのなら…ふふ、紅だね。 血のように真っ赤で、絶望に霞んだ、素敵な紅…」
余りの激痛に、頭の中が真っ白になる。 狂乱し、振りほどいた手で、咄嗟に左目を押さえた。
…見えない。 左目の、あったはずの視界が、全く見えなくなっている。 血がまるで水流の様に溢れ出す。
痛い、痛い、痛い、痛い!
上手く声にならない。 何が起きているのかも、頭が理解するのを否定している。
そんな私の、残された視界に入ったのは…愛おしそうに、血に塗れた丸い其れを…舌で舐めている醜悪な男の姿だった。
「ずっとずっとずっと、欲しかった、欲しかったんだぁ…ふふ、あは、あはははは! 素敵だなぁ」